金曜の夜は別の人になりたい

人生は割とへっちゃら

普通

稲中卓球部を描いた古谷実さんの漫画でヒミズという作品がある。中学生のときに読んだ稲中卓球部は面白すぎて衝撃的だったけどヒミズも同じくらい衝撃的だった。

ヒミズを初めて読んだのは16とか17歳くらいのときだったかな。稲中を描いた人の他の作品を読んでみたくて、ブックオフの100円コーナーみたいな本棚にあったヒミズを全巻買った。100円だったからか見た目が汚く、本の側面は酸化して茶色くなっていた。読み終わったら捨てようと思っていた。

稲中卓球部がギャグ漫画だったから、ヒミズも同じようにギャグ漫画なのだろうと思って読み始めてしまった。2、3話程度読んだあと、これはギャグ漫画じゃないなと気づき始めたころにはもう完全に引き込まれていた。

ヒミズの主人公は普通になろうとしていた。あることが起きて、普通に戻ろうと行動する物語だ。初めてヒミズを読んだときの僕も、ヒミズの主人公と同じように普通になりたいと考えていた。だから物凄く刺さるものがあったことをよく覚えている。そしてそれは今でも刺さり続けていて、たぶん心臓のあたりに刺さっている。全然抜けそうにないから困っている。 

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ヒミズの主人公は走るのが好きで、走っている時間は何も考えずに済むから好きなのだそうだ。走るのは苦手だけど、僕も同じ理由で歩くことが好きで、時間があったら歩くようにしている。仕事中の休憩時間は必ず職場から出るようにしていて、大好きな音楽を聴きながら隣の駅まで歩いている。どうして隣の駅まで歩くのかというと、そこまで行けば職場の人と偶然会うことも少ないし、安心して休める感じするからそのようにしている。

今、仕事に関係する時間の中で、この隣の駅まで歩いている時間が1番好きだ。でも隣の駅から職場まで戻るときはまあまあ憂鬱。シンプルに遠いなと後悔することもある。だけど歩くのが好きだから苦しくはない。

休憩中に歩いている時間だけが本当の意味での休憩だと感じる。働くことから解放されている感じがする。もしもこの時間がなかったら、僕は歩くどころか立つこともできないと思う。自分を保つために歩いている。ヒミズの主人公も概ねこのような気持ちで走っていたのではないかと想像している。体に負荷を掛けて心の平穏を保っているのだから、我ながら世話がないなと思う。

今朝は雪が積もっていて歩くのが大変だった。足元が悪すぎて何度も転びそうになった。後ろから歩いてくる何人もの人が僕を追い越して行った。今日のお昼までには溶けそうにない雪を眺めながら、スニーカーで家を出てしまったことを少し後悔した。