金曜の夜は別の人になりたい

人生は割とへっちゃら

君はいつも道路の真ん中を走る

自宅を出てすぐのところに大きめの道路がある。私はいつもその道路を歩いて駅やスーパーに向かう。片側一車線の車通りが少ない静かな道路だ。

その道路を歩いているときに最近よく見かける人がいる。その人はいつも道路の真ん中を走っている。歩道があるのにも関わらず、その人は道路の真ん中を走っている。バイクにも自転車にも乗らず、ナチュラルに車道の真ん中を走っている。

その人は少し太った男性である。肩まで伸びた髪を耳にかけ、無精髭を生やしている。いつも動きやすそうな格好をしていて、ジャージやパーカーなどを着ている。独特の雰囲気を漂わせており、良くも悪くも只者ではない感じがする。

彼はいつも一心不乱に道路の真ん中を走っている。だが決して速くはなく、後ろから車が来たらヤバいんじゃね?と見ていて不安になる。そして何故か、私が見かけるときには前からも後ろからも車は来なくて、車が来た時に彼がどうしているのかはよく分からない。何度も見かけているから車に轢かれることはないのだろうけど、彼が車を避けているのか、車が彼を避けているのか、については謎である。もしも後者だったら少し面白いなと思っている。

最近では彼のことを少し格好良いと思い始めている。どうしてそう思うのかを考えてみたところ、やはりブレない姿勢に尽きると思う。あとは何気に命懸けであるところもそう。車に轢かれる可能性が高いのに、そのリスクを省みず、彼は道路の真ん中を走っている。新手の自殺行為なのかもしれない、と考えるとアバンギャルドすぎてエグい。佇まいとしても、全盛期を過ぎて少し太ってしまった往年のロックスターのようにも見えてくる。年代でいうと80年代後半くらいアメリカのバンドを想起させる。エレキギターの速弾きが得意そうだ。

なかなか彼の真似はできない。車に轢かれる可能性だけでなく、迷惑行為で通報されてしまう可能性だってあるのだから。守るものなんて何も無いのだ、と言わんばかりの姿勢は素晴らしいと思う。その姿勢だけは見習いたいなと思いながら、今日も私は歩道を歩いている。守るものが何も無いのは彼と一緒だけど、私は明日も歩道を歩くだろう。歩道の真ん中ではなく、片側に寄って歩くだろう。