金曜の夜は別の人になりたい

人生は割とへっちゃら

すごくたまに

地元が嫌いすぎて上京したくせに地元に帰ろうかなと考えていた時期があった。実家に戻るのは無理だから、せめて実家に近いところで変な安い中古マンションでも買って、そこで暮らせたら良いかもなどと思っていた。まだ上京したばかりのころで、ホームシックみたいなことは無かったけどそういうことを考えていた。本当は帰りたかったのかもしれない。未だに自分で自分のことがよく分からない。

社会人になって初めて給料をもらったとき、母親に「旅行でもどうですか?」と誘ってみたことがあった。結果としてはちゃんと断られてしまったのだけど、断られるとは思ってなかったから結構ビックリした。母親も仕事をしてたから、急に言われても休みは取れないとか、実家には猫がいてその世話があるから無理とか、そのようなことを言われた。正直な話、私も旅行はあまり好きではないし、母親もそうなんだろうなと感じていたから誘いかたをミスったかもしれないと思った。結局、旅行に行って使おうと思っていたお金は昔から憧れていたジョンレノンが使っていたエレキギターを買うお金になった。そのときに地元にはもう帰れる場所は無いんだなと悟った。

でもまあ自業自得というか、なるべくしてそうなったんだろうなとは思った。母親を恨んだり、故郷を憎んだりはしていない。でも単純に悲しかったことは覚えている。今となっては笑い話だし、もしもあのとき母親と旅行に行けていたら、たぶん今は無いと思えるから、これはこれで良かったのかもしれない。そう思うようにしている、ということではなくて、本当にそう思っている。

確信めいたものではなく、なんとなく直感的にこれで良かったと思える日がある。すごくたまに、ごくわずかに。その思いだけで生きている。藁に縋るようような気持ちで。