金曜の夜は別の人になりたい

人生は割とへっちゃら

いつも誰かが

友達が軽い脱水症状になってしまい大変だったらしい、みたいな話を母から聞いた。母の友達は朝の通勤時に急に具合が悪くなり、電車から地下鉄に乗り換える際の連絡通路でうずくまっていたのだそうだ。うずくまっていても誰も声を掛けてくれなかったらしく、落ち着いたタイミングで近くにいたサラリーマン風の男の人を捕まえて「体調が悪いので駅員さんを呼んでください」とお願いしたとのこと。そしたらその男の人は「分かりました」と言ってその場を離れ、そのあとどれだけ待っても戻ってこなかったらしい。結局、母の友達は自分で救急車を呼び、病院で点滴を打ってもらったのだそうだ。母は「酷い話だ」と言っていた。私は「朝の通勤時間帯だったから仕方ないんじゃないの、知らんけど」と感想を伝えた。母は「まあそういうのもあるよね」と言って、私は「でも自力で何とかしたんだからその友達は凄いよ」と返した。

昔、仕事で北関東のよく分からない僻地に行く機会があった。その僻地の最寄駅近くにはイオンモールがあって、絵に描いたようようなベットタウンみたいな街だった。私の田舎にもにもイオンモールみたいな商業施設があり、なんだか懐かしいような気持ちになってしまった当時の私は、仕事終わりにイオンモールに寄ってから帰ることにした。当たり前だけどイオンモールはもの凄く広いから全部を見て回るのは無理だった。1階をグルッと見ただけで疲れてしまい、近くにあったスターバックスで休憩することにした。その日はとても寒い日だったから、ベタにスターバックスラテのホットを注文した。私は窓際の席に座り、外の景色を眺めながらコーヒーを飲んでいた。

窓の前には歩道があって、その奥に車道と公園が見えた。歩道と車道の間に生えた木々たちに付いていたであろう葉っぱが枯れ葉となって地面に落ちていた。なんとなく茶色いイメージの風景だった。人通りは少なく、ふと歩道を見ると3歳くらいの男の子がパタパタと走っているのが見えた。転びそうだなあと思って見ていると、案の定転んだから少し笑いそうになった。男の子が転んだあと、すぐ後ろからおそらくお母さんと思われる人が小走りで駆け寄ってきて、男の子が起き上がるのを助けていた。窓越しだったからよく分からなかったけど、お母さんと思われる人は「泣かなかったの偉いね」みたいなことを言って男の子の頭を撫でていた。そのあと2人は手を繋ぎ、私の前を通り過ぎていった。

子供のころはいつも誰かが助けてくれた。大人になるにつれ、誰かの助けがなくても程々に生きていけるようになっていった。母の友達の話を聞いて、北関東の僻地で見た親子のことを思い出していた。私は人に優しくできてないな、みたいなことを考えていた。